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by qodama

今北産業

転生
色々あって
やる気出ない

めでたし、めでたし







天使に作られたトルクは、天使において行かれたトルク
だから僕は天使のいる地球儀に行きたいんだ

 ―「37番」





夜中である。

トルクは「天使」と呼ばれる者たちの手によって作り出された、真空に浮かぶ小さな筒である。
まだトルクの猫たちと天使たちがともに歩んでいた時代には、天使のもつ道具によってトルクは光り輝いていたという。
今はそのような天使の遺物は多くが失われ、トルクを照らすことはなくなった。

その天使の遺物にかわって頑張っているのはカビ達である。
トルクにおけるカビの種類は膨大で、トルクの猫たちは長年に渡って研究し、生活に役立ててきた。
糧食、酒、保存料、接着剤、研磨用材、医療薬などなど…。
そのうちのひとつが、発光細菌たちだ。
この菌類は今ではトルクのどこでも手に入る灯りとして重宝されている。

というわけで。
今、トルクは暗闇に包まれているが、その闇はトルクを征服しきってはいない。

深いふかいその闇を降りてゆくと、微かな光の筋が見える。
光の漏れ出る場所からさらに下を見下ろせば、いくつもの光の点在する、坂道回廊の迷路を一望できる。

機芯坑。
それがこの武器商たちの住む地の名である。
行き交う者は多く様々で、その潜在的な客を出迎える商いの者たちもまた様々だ。
露店や工房の丁稚、客、冷やかし、その他諸々で埋め尽くされた回廊を苦労して抜けると、突如景色が開ける。
そこはこの機芯坑の頂点を目指す回廊であり、ほんの一部の猫しか通れない通路でもある。
さらにその先の屋敷。
この、きらきらと光る石を何千と押し付けたような荘厳なねぐらの持ち主こそ、当代機芯坑の商工長・土生である。

しかしこのねぐら。見た目とは程遠い音に支配されている。
むしゃむしゃ、ハグハグと、とにかく食い散らかす音と、その周囲をとてとて歩き回るせわしない音。
『ギャハハハハ!売り上げはそんなところか!よくやったではないか近江の者よ』
食い散らかしている方からそのような声がする。
トルクの猫は電波で喋る。額からピンと伸びた一本の電波ヒゲから信号を発し、同じ電波ヒゲで受け取る。
この低い周波数―恐らくは雄のものである―はその大きめの出力を遠慮せずに放っていることからして、このねぐらの主…即ち土生である。
『集金に向かったこちらの丁稚と連絡が取れず、わたくしめも困り果てておりました…』
こちらは先ほどのものと比べると少し高めだが、これも同じく雄のものだろう。周囲を歩き回る方の声で、波長に和を協調できないぶれのある、簡単に言ってしまえば少し嫌な感じの声である。
続ける。
『それが近江様方のお陰で丁稚に余計な金を払う必要すらなくなった。本当にありがとう存じます』

少し間があって、チンという澄んだ音がする。

それまで、何も感じられなかった闇の中に、初めて軽い電波のノイズが漏れた。
そこに居る者が発する。
『仕事を見られ、斬った』
満足そうにして土生はかぶりついていた肉から顔をあげ、返す。
『契約上も、利害上も、全く問題のない仕事だ。引き続き貴様には護衛と横領の監視にあたってもらおう』
『旦那様、お言葉ですが、横領の事実は今現在ありません。この者に頼むのは護衛だけで良いのではありませんか?』
ギロリと睨まれる。小さな気配の慌しい動きがピタリと止まった。
『契約続行だ。儂のもっている鉄座の職人一人と露店商、工房主の一部どもに不穏な動きをしている者があるはずだ。護衛に当たりつつ、調べてもらおうか』
冷たさを具現化したような闇が、笑う。
『ありがとう存じます、土生さま』


***


風が低音から高音になって駆け抜けた。
鋭角的で且つ天使の姿をしたそのシルエットは、闇より宇宙の色、様々で微かな光が作り出す薄闇のような色をしている。
この九武は、そのシルエット通り天使の手によって作られたもの。
物、である。九武はロボットだ。
トルクの猫たちはその電波ひげから会話するのと同様に、ロボットに信号を伝えることで彼らと会話し、また操ることができる。
日常的な作業から、肉体労働の多く、「スパイラルダイブ」と呼ばれる戦闘試合、果ては疾のような暗殺稼業も、総て支えているのがロボットたちだ。
九武だけではない。全てのロボット、そしてトルクのほとんどのものは、トルクを含め、天使の手によって作られたと言われる。
その天使たちは地球儀と呼ばれる、トルクから空を見れば見つけることのできる青と白の巨大な星から来たと神話は語る。
疾は神話についてはあまり詳しくは知らない。坊さんにも興味がない。

しかし、その真偽はともかく、現実ここにある九武の形が、疾は好きだった。
戦闘に特化したタイプだけがもつ独特の、よく斬れそうな印象の、すっきりとした美しさを九武はもっていた。
疾がどれだけ金に困っても九武を絶対に手放そうとしなかったのは、これだけが理由ではない。
九武は短い間なら空が飛べる。
羽のあるロボットはトルクでは珍しくない。
が、しかし、羽があっても飛べないロボットはたくさんいるし、そもそも九武にはその羽すらないのである。
ただ空を飛んだ後に背中から腰にかけてある平らなプレートと、二本ある帯か尻尾のような部品が触れないぐらい熱くなるのだ。
無理して長時間飛ぶと暫く動けなくなってしまうようなので、飛ぶ必要がある時以外はあまり使うことはない。

というわけで、現在、疾と九武は必要があって空を飛んでいる。
トルクには時折謎めいた天使の遺跡があるのだが、ここもその一つ。
黒くてつるつるした金属と、硝子のようで、硝子ではない暖かさと強度をもつ透明な何かで構成された谷である。
時々、チカチカと谷のどこかで何かが光っているが、疾にはもちろん、トルクのどの猫も、それが危険か安全かすら分からないでいる。
疾はそれを見て、九武と似ているなと思う。
何だかよく分からないけど綺麗で引きこまれる。
もっと近くで見てみたい気もするが、それが無意味だという事を疾は知っていた。

谷を抜ければ機芯坑。

仕事が、はじまる。
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by qodama | 2008-12-30 14:53 | オマケつき日記